「種・・・?」
怪訝な顔をしたふたりに向かって、
「どの人間にも、魔物の種は存在する。無論、光の戦士と言われているおまえらにもな。その種を土壌に蒔き、水や栄養を与えて花に――魔物に育て上げるのが余の仕事なのだ」
「じゃ、リーアは・・・」
「ああ。奴は最高の種だと思ったよ。憎悪と怒りと哀しみ、すべてを兼ね備えた最上の魔物になるかと思ったが・・・女ごときに惑わされるとはな。こいつも失敗作だったぜ」
「こいつも?じゃ、他にもいるのか?」
「ああ、ギサールの医者がそうだったよ。確か、おまえらが邪魔したんだよな」
ふたりは愕然とした。
「ダコタを唆したのは、おまえだったのか!」
天使は、クックッと不快な笑声をたてた。
「ま、おまえらのおかげであいつも腐った種だということがわかった。その点は感謝する・・・。奴は精気を欲したのだから、失敗の代償として奴の精気をすっかり頂いたが・・・」
「リーアのときは・・・」
「六年前のあの日、奴は吹雪の中で死にかけていた・・・。『じいちゃん、母さん、今行くよ』とかほざいてたな。余はこの姿でリーアの前に現れた・・・。すると、『天使サマ』呼ばわりだ。そのまま天使の振りをするのは骨が折れたがな」
両手を後ろに回して翼をもぎ取った。瞬間、それは光沢を放つ黒いローブをまとい、大きな紫色の杖を握った魔物の姿に変わっていた。
「子供って奴は、大人とは別物の残虐性を持っているからな。時を止めた空間に閉じ込めて、成長しないようにした。洗脳するのは易しかったが・・・それが解けるのもあっという間だったか。所詮腐った種だったな」
「なんで六年も待ったんだ!?」
「いい材料は、じっくり時間をかけて育て上げるものだからな。それに、『復讐という料理は冷めた頃が美味い』という言葉もある・・・」
「言いたいことはそれだけか?」
ジョーが、一歩前に進み出た。
「リーアを追い詰めた連中は許せねえが・・・てめえはもっと許せねえ!ぶっ殺してやる!」
「同感だ」
後ろを向くと、村人たちがおそるおそるこちらの様子をうかがっていた。ユウは冷ややかに言い放った。
「ここは危険です。逃げてください」
そして、小声で「邪魔なんでね」と呟いた。
村人たちがクモの子を散らすようにいなくなる。
「いくぞ、ジョー!」
「ああ!」
「リーア、メリジェさん!」
メグは、ふたりを見た。出血が止まらず、顔からは既に血の色が失われている。危険な状態なのは、誰の目にも明らかだった。
同時に回復させるしかない。一度に魔法をふたつ放つなど経験は皆無だが、メグは、目を閉じた。組んだ両手がほのかに光り始める。やがて光はまぶしいほどに強まる。
「生命の灯火よ、再び燃え上がれ・・・」
ふたりにかざす。だが、光は傷に触れた途端、あっさりと消えてしまった。
「そ、そんな・・・!」
メグは、二度、三度とケアルラを唱えた。だが、結果は同じだった。焦燥感と恐怖がのしかかってくる。
「どうして・・・」
動揺するメグの頭の中に、ウネの言葉が響いた。それは、古代遺跡に向かう途中でのこと。
「――いいかい、魔法ってのは、術者の精神状態が大きく影響するんだよ。どうやらあんたは些細なことで動揺しちまう人間のようだからね・・・」
常に沈着冷静でいること。それが、真っ先にウネから教えられたことだった。メグは、自分に言いきかせ、再び精神集中を始めた。開いた手から溢れる光は、メグたちをすっかり包み込む。
白く輝く両手を差し出し、更に気力を振り絞る。額に汗粒が浮き、胸が苦しくなって、激しく咳き込む。精神的な消耗によるものだが、メグは構わず続けた。と、
「お、おい・・・」
リーアが目を開けた。
「なんで?なんで、そこまで、するんだ・・・?」
「もう、嫌なの・・・。人が死ぬのを見るのは!」
メグは、涙をこぼしながら、
「大切な人が何人も・・・目の前で死んでいって・・・」
己の無力さを思い知らされた。その自責の念が、ここに来てからより強くなった。リーアとメリジェが傷つけられたとき、悪夢がよみがえった。また人が死ぬことへの恐怖で一杯だった。正気に戻してくれたのはジョーの言葉だった。
「リーア・・・メリジェさんに、死んじゃだめだって、言ったじゃない。リーアだって・・・絶対死んじゃだめよ・・・」
自分の力で絶対ふたりを助けてみせる。それが、わたしに出来ることなんだから!
