「リーア!おまえがやったんだろう!」
 放火と盗みの汚名を着せられたあの日のこと。事件の直後に、コージュスの腰巾着たちが家に乗り込んで来た。盗んだ金を取り戻すとか言って、家の中を容赦なく荒らした。止めようとしたデレクは突き飛ばされ、腰を打った。持病の発作を起こしたのはその直後だった。丸一日昏睡状態に陥った後、
「リーア・・・おまえはそんなことをやるような人間じゃない。それはわしが一番知っておるよ・・・」
 これが、最期の言葉だった。
「朝になったときには、もう・・・。人間の身体があんなに冷たくなるなんて、初めて知ったよ・・・」
 デレクの遺体を、墓場に運ぶことは出来なかった。村人全員、コージュスの目を恐れ、気にしていたから。
「で・・・結局どうしたんだよ。家の前とはいっても、おまえだけで大の大人ひとり運んで埋めるなんて並大抵のことじゃないだろう」
 ジョーが、生じた疑問を口にする。リーアは年齢不相応に痩身で、体力があるようには見えない。
「じいちゃんは・・・バラバラに切って埋めた。ボクの力では、そうするしかなかったんだよ!」
「げっ・・・」
 四人は絶句した。メグとメリジェは、顔面蒼白になっている。リーアは、目をきつく閉じていた。瞼で爆発しそうな涙をせき止めているようだったが、それでも完全に止められるわけではない。いつしかリーアの頬は月明かりで光っていた。
「ボクだって、嫌だった・・・でも、お墓作ってあげないと、休めないから・・・じいちゃん、ごめんね・・・って、心の中で謝りながら、ボクは・・・」
 泣きじゃくりながら、血と涙に手を染めるリーアの姿が、ユウたちの頭の中に瞬いた。メリジェが、声を殺して泣いていた。
 そして、リーアは姿を消し、戻ってきた。この六年間の間に、何があったんだろうか?一番分らないのは、彼の姿が子供のままな事だ。彼だけ時が止まっていたようだ。
「リーア・・・」
 ユウが口を開きかけたときだった。
「化け物め!」
 罵声と共に飛んできた石つぶてが、リーアの額を直撃したのだ。
 あたりを見回すと、いつの間にか村人たちが集まってきていた。様々な声が聞こえる。
「お嬢さまだ!生きておられたんだ・・・」
「なんでリーアが・・・?幽霊じゃねえのか・・・?」
「お嬢さま!」
 飛び出してきたのはハーズだった。彼はメリジェの腕をつかむと、
「そんな奴に関ってはいけません!さあ、来るんです!」
「い、いや、離してっ!」
 メリジェは必死に抵抗する。
「ハーズさん・・・あなたはいつもそうだった・・・」 
 リーアは、凍りつくような瞳でハーズを凝視した。血が唇まで流れるのも気にならない様子だった。
「メリジェと遊ぶボクをいつも目の敵にして。貧乏人はお嬢さまに近づくなだとか、妾腹の子だとか言って馬鹿にして。それでいてメリジェには諂って。それにあのとき・・・」
「黙れ!盗人のくせに・・・」
「違う!ボクじゃない!」
「おまえ以外に誰がやるんだ!」
 村人たちは戸惑っていた。が、ひとりが叫んだ。
「こいつは、逆恨みで村を滅ぼしに来たんだ!魔物の味方をする必要なんてないだろう!」
「違うわ!リーアは魔物なんかじゃない!本当の魔物はあなたたちのほうだわ!」
 メリジェの弁護に、ハーズの頭に血が上ったらしい。
「お嬢さま、何でこんな奴をかばうんですか!こいつはお嬢さまの家から五千ギルを盗み、あまつさえ火をつけた張本人ですよ!」
「そうだ!」
 と、誰かが賛同しかけて――。
「ハーズさん。なんで盗まれた金額を知ってるの?」
 と、メリジェが問いかけた。
「いくら盗まれたのかパパにもわからなかったのに・・・」
 この台詞に、皆の視線がいっせいにハーズに向いた。