「あ、う、そ、それ・・・は・・・」
 ハーズが焦りはじめたのが、ユウたちの目にも明らかだった。少しの沈黙の後、
「そういえば、あんたが真っ先に言い出したんだよな、『犯人はリーアだ』って」
「あんたがやったのかい?」
「お、おれはそんなこと・・・」
 往生際の悪いハーズに、怒り心頭のジョーが言い放った。
「いい加減にしろ!嘘ってのはばれるためにあるんだ!なんなら・・・」
 右手にはめた武器の爪を掲げてすごんでみせた。
「力ずくで吐かせてやってもいいんだぜ?」
「うう・・・し、仕方なかったんだよ・・・」
 ハーズは、その場にガックリと座り込んだ。そしてぽつぽつと話し始めた。
「事件の三日位前から・・・息子が、リュンが重い病にかかっちまったんだ・・・高熱が出たり、死人みたいに冷たくなったりを繰り返す、奇怪な病だった・・・」
 それを聞いて、ユウたちはカナーンの街での出来事を思い出した。
「ちょうど隣村に来ていた旅の薬師が、特効薬を持ってるというので、譲ってくれと頼んだ・・・だが奴は、法外な金額を請求してきた。田舎の鍛冶屋の稼ぎなんてたかが知れてる、家財一切を金に換えたところでその金額の半分にも満たない・・・。旦那さまからは既に借金があったから、また借りるなんて出来るわけねえ・・・村に戻ったのは夜中になってからだった。旦那さまの家の前を通りがかって・・・気がついたら扉を開けていた。鍵はかかってなかった。そのまま金庫室に忍び込んで、薬代の五千ギルだけ盗って逃げた・・・」
「本当に薬だけか?」
 今まで黙っていたユウが、口を開いた。
「リュンが患った病気・・・おれも昔かかったことがあるんだ。確かに、その病の特効薬は希少だったようだが、そんなに高くはなかった。他のことにも使ったんじゃないのか?」
「ほ、本当だ!確かにその薬師は五千ギルもふっかけてきたんだ!滅多にとれない薬草を使っているからって!女房が死んだばかりで、リュンまでも失いたくなかったんだよ!」
「じゃあ、火事は!?おまえが証拠隠しに放火したんじゃねえのか!?」
「それも知らない!金を盗った後、すぐ隣村の薬師を叩き起こして薬を買った。リュンに飲ませて一息ついたとき、『火事だ!』という声が聞こえてきて・・・おれじゃない!信じてくれ!」
「・・・わたしは信じるわ。あれはパパの不注意だったのよ。きっとそうよ」
 メリジェが、半ば自分に言い聞かせるように言ったとき、周囲を凄まじい風が襲った。
「おまえのせいで、じいちゃんは死んだんだ!あのとき、おまえがじいちゃんを突き飛ばしたりしなければ――!」
 風はリーアを中心に吹き荒れているのだ。リーアの中にある憎悪と悲しみが風を激しくし、リーアの表情を一変させているのだ。
 数人が吹っ飛んだ。ユウはメリジェとハーズをかばって立ち、ジョーとメグはかがみこんで必死に耐えた。
「殺してやる!みんな、大嫌いだ!天使サマのくれた力で、こんな村・・・!」
「天使サマ?」
「あの日吹雪の中で倒れていたボクを助けてくれたのさ!おまえが生命を捨てることはない、悪いのは村の奴らだって。復讐して当然だって。そしてボクに力を授けてくださった」
 ふと、メグはリーアの独り言を思い出した。
「リーア!メリジェさんが死んだと言ったの、その天使サマなの!?」
 リーアは驚いたような顔をした。その拍子に風がやんだ。
「あ、ああ。ボクを捜しに行って凍え死んだって・・・」
「でもメリジェさんは生きているわ」
 ユウの頭の中に、ひとつの推測が生まれた。その天使サマとやらが、リーアを自分の駒にするためにそんな嘘をついたのでは?
「なあリーア。その天使サマとやらが、でたらめ言ったんじゃないか?」
「う、うるさい!」
 リーアはハーズを睨みつけた。
「たとえそうでも、ボクの目的は変わらないんだ。まず、そいつから殺してやる!」
 ハーズは脅え、慌てふためきながら逃げようとした。その前に素早くリーアが姿を現す。ハーズは反対方向に走ろうとして転倒した。
「死ねえっ!」
「よせっ!」
「やめてーっ!」
 リーアの手からエアロガの刃が放たれた。肉を切り裂く鈍い音と共に、赤い血が飛び散った。