ジョーが目を覚ましたのは、ユウが外に出てしばらくしてからだった。
 まだ少しボーっとしていたが、徐々に自分のことや、何があったのかということを思い出していった。一番印象が強いのは水の洞窟での出来事・・・。
 眼前でメグとエリアを傷つけられ、自我を忘れてクラーケンを攻撃したことは確かだ。あのときの感覚は覚えている。そして、あの不思議な声も・・・。
 ジョーはペンダントを手のひらに乗せた。こいつのせいか?こいつのせいで、オレはあんなバケモノじみた力を出してしまったのか?それとも、単なる火事場のバカ力みたいなものだったのか?そっちだったら救われるんだが・・・。
「――そうだ」
 メグに助けてもらった礼を言っていなかったことを思い出し、ジョーは身を起こした。この時点でようやく、ここが飛空艇の中ではないこと、部屋に自分しかいないことに気づいた。横のベッドの布団がめくれているので、誰かがいたということは明白だったが・・・。
 そこまで考えたとき、部屋の扉が開いて三十歳半ばとみられる女性が入ってきた。彼女はジョーを見るなり駆け寄ってきて、
「目が覚めたのね、よかった・・・あら、あの子は?」
「あの子?どっちだ?」
「あんたと一緒に倒れていた黒い髪の男の子だよ。剣もなくなってる・・・もしかして、外に出て行ったのかしら?」
「そうか、ユウは無事だったか・・・あとで探しに行こう。で、もうひとりいたはずだけど?幼児体型の・・・」
「ああ、あの女の子なら、別の部屋でまだ眠ってるよ。でも・・・」
 女性は言葉を切り、
「昨夜一度目を覚ましたらしいのよ。私が来たときにはまた眠っていたけど・・・あたりのものを投げつけたようで、花瓶や本が部屋中に散らばっていたの。悪い夢でも見たのかしら?」
 メグもいると知り、ジョーは安堵のため息をついた。と、女性が思い出したように、
「そうそう、大変だよ!あんたたちの船がえらいことになったの。ついて来て」

「誰がこんなことを・・・」
 金色の鎖で束縛された飛空艇を見ながら、ジョーは呟いた。鎖を力づくでほどこうとしてみたが、魔法でもかけられているのか、触ったとたんに指に刺されたような痺れが走り、諦めざるをえなかった。
「南の館のゴールドルだよ。なんでこんなことをするんだって訊いたら、あんたたちに自分のクリスタルを盗られたくないからとか言ってたわね」
「クリスタル!?それって土のクリスタルのことか!?」
 血相をかえたジョーの言葉に、女性――宿屋のおかみメルチェットは首をふった。
「そこまではわからないわ・・・」
「どっちにしろ、鎖をどうにかしないことには先に進めないな。そのゴールドルってヤツは南にいるんだったな!?ぶっとばして鎖をほどかせてやる」
「そのまま行ってもだめよ、館の前には底なし沼があるから。下水道の奥に住む、デリラっていう変わり者のばあさんが沼を渡ることのできる靴を持っているらしいよ」
「わかった、ありがとう。と、その前にあいつを探さないと・・・」
 ここまで言ったとき、調子っぱずれで陽気な歌声が聞こえてきた。それを聞いたメルチェットが「また・・・」と呟いて頭をおさえる。ジョーは声のするほうに顔を向けて、声を上げずにはいられなかった。
「げっ!な、何やってんだ、あいつ・・・!?」
 歌い踊っているのは四人の老人たちだが、彼らの前に座り込んでそれを見物している人物は紛れもなくユウだった。ジョーは他人のふりをしてしまいたかったが、メルチェットの前ではそうもいかない。止めに行く前に訊いてみることにした。
「・・・あの爺さんたちはいったい?」
「うちのおじいさんと、そのお仲間・・・水のクリスタルの声を聞いたのを、啓示だと取って、自分が選ばれた光の戦士だと思いこんじゃったの。それで、他の人たちを引き連れて、いつもああなのよ・・・」
 赤面したメルチェットは消え入りそうな声で答える。踊りが一段落したところで、ジョーはユウのそばに一気に駆け寄って腕を引っ張り、木陰に連れていった。

「・・・というわけだ。おまえがのんきに休んでいる間に情報収集してやったんだ、ありがたく思え」
 飛空艇の前で、ジョーはユウに事情を説明していた。ユウは咳払いをすると、
「要は、デリラばあさんから底なし沼を渡るための靴を借りて、ゴールドルの館に行けばいいんだろう?さっさと下水道に行くぞ」
 ユウは歩き出した。
「おい、下水道の場所知ってるのか!?」
「さっき街を歩き回っていたときに見つけたんだよ。あっちだ」
 ユウとジョーは下水道に向かった。その会話を、四人組が聞いていたとも知らずに・・・。

「――アービン、どうする?」
 仲間の質問に、宿屋の隠居アービンはためらうことなく返答した。
「そんなの決まっとる、先回りじゃ!わしゃ近道を知ってるんじゃよ」
 アービンは横の建物の壁を指した。人ひとり入れそうなほどの隙間があり、ここを通り抜ければ、目指す下水道のすぐ近くにたどりつけるのだ。
「よし、行こう!」
 アービンたちは壁の隙間に身体を押し込んだ・・・四人いっぺんに。
「ま、待て!ちゃんとひとりずつ入らんか!」
「わしが一番最初に入るに決まってるじゃろう!ほかのヤツらはジャンケンでもして決めろ!」
「わし、ジャンケン弱いんじゃよ・・・クジ引きにしないか?」
「そんなヒマがあるか!」
 言い合い、押し合いながらも、アービン組はなんとか近道を抜けることに成功したのだった。