強い光に目を射られ、目を開けた。上体を起こして、窓からさしてくる陽光から身をそらすようにする。
「ここは・・・」
 あたりを見回すと、隣のベッドに茶髪の少年が横たわっているのがわかった。一瞬誰だろう?と思ったが、
「ジョー・・・」
 すぐに彼の名前を思い出すことが出来た。そして、自分の名は「ユウ」であり、もうひとりの仲間の名前は「メグ」。この部屋にベッドがふたつしかないところを見ると、彼女はほかの部屋にいるのだろうか?いや、それ以前になぜこんなところにいるのか・・・ここまで考えて、ユウは一番重大なことに気づいた。記憶がないのだ。
 自分や仲間の名前は分かっている。もともとはウルの住人で、親代わりのトパパやニーナと同居していたことも覚えている。だが・・・それ以外の記憶が抜け落ちてしまっているのだ。自分たちがどのような経緯を経てここにいるのか・・・その部分だけがなくなっていた。あたりの光景から察するに、見慣れたウルの我が家ではないようだ。
 とりあえず情報を得ようと思い、ユウはベッドから出た。扉をそっと開けて誰もいないことを確認すると、人に見つからないように気をつけながら外に出ていった。壁にたてかけてあった剣を持ち出すことは忘れていなかった。

 街の名が「アムル」ということは入り口の立て看板でわかった。だがそれだけで、記憶を取り戻すよすがにはならなかった。
 橋のそばに設置してあるベンチに腰掛けながら、ユウは持ち物を調べてみることにした。今持っているものは、剣と翡翠で出来た竜の彫り物だけだ。
 ユウは剣を鞘から抜いてみた。十六の誕生日のときにもらった剣とは全然違う。見たことのあるような紋章が柄に施され、赤い宝石が象嵌されたもので、そこらの武器屋で買えるものとは到底思えなかった。
 次に竜の彫り物を手にとってみた。ウルの店ではこのような品は売っていなかったような気がする。とすると、外で買ったのだろうか?しかし、実用主義の自分がこういうものを購入するとは思えない。とすると、誰かからもらったのだろうか?ここまで考えてみて、「お守りにして」という誰かの言葉が脳裏を掠めた。
「うっ・・・」
 一瞬頭の芯が針を刺しこまれたように鋭く痛み、ユウは目をつぶった。と、どこからか歌声が聞こえてきた。率直に言って上手いとは言い難いものだったが・・・。
「な、なんだ、ありゃ・・・?」
 声のするほうを見て、ユウは唖然とせざるを得なかった。
 歌声の主は、四人の老人だった。手には棍棒や安物の盾を持ち、皮の鎧をまとっている。ユウの目の前で、老人たちは円陣を組み、わけのわからない踊りを始めた。それを見た街の人々は、ため息をついたり呆れ返ったような顔をして、どこかに行ってしまった。
 そしてユウは、立ち去ることも忘れて目の前の光景を見つめていた(というより、単に呆然としていただけなのだが・・・)。幸か不幸か、それが老人たちの目に止まった。やおら近づいてきて、
「お主、わしらの正体を知りたいか?わしらは選ばれし者じゃ」
「世界を救うために生を受けた」
「今、世界は闇で覆い尽くされようとしている」
「戦いのときは来た!」
 訊いてもいないのに話し出した。
「・・・で、それとここで踊ることと何の関係が?」
 勇気を出して尋ねてみると、先頭の老人はチッチッと指をふってみせ、
「世界がこの状態だからこそ、踊りは必要なのじゃよ。踊ることで嫌なことを忘れ、それを見る者の気持ちを癒すことが出来る」
 癒してるのか?とユウは疑問に思ったが、次の瞬間には老人に腕を引っ張られてしまっていた。
「お主、浮かない顔をしているな。よし、まずはわしらの踊りを見ろ!今はとにかく、楽しむことを考えなさい!」
 老人たちは踊りを再開した。ユウはその場を立ち去る気力もなく、座り込んで頬杖をつき、ボーっと踊りを眺めていた。
 やがて踊りが終わると、ユウはとりあえず気のない拍手をしておいた。それでも老人たちは喜んで手を振り、
「よし、続けて二番いくぞ!」
「光の戦士は何事も完璧でなくてはいかんのじゃ!」
 この台詞を聞いて、ユウの動きがピタリと止まった。
「光の戦士・・・?」
 こう呟いた瞬間、ユウの頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。いや、一気に蘇ってきた。つまり、すべて思い出したのだ。
 そうだ、おれたちはクリスタルに選ばれた「本物の」光の戦士。そのために旅に出たんだった。でもなぜ、そんな大事なことを忘れていたんだ・・・?ここまで思ったとき、腕をぐいと引っ張られた。
「あ、ジョー・・・」
「何ボケッとしてんだ、声かけようかどうか迷ってたんだぞ!」
「悪い・・・ちょっと色々あって・・・」
「どんな『色々』なんだ?まあいい、ちょっと来な。オレたちが眠っている間に厄介なことになっちまったようだ」
 まだ踊り続けている老人たちに心の中でお礼を言い、ユウはジョーのあとをついていった。

「これは・・・!」
 街の外に停泊していたエンタープライズを見た瞬間、ユウは絶句した。
 飛空艇そのものは何もなかった。今飛ばすことも可能だろう。
 ただし、船体が金色の鎖でぐるぐる巻きにされていなければ、その鎖が街のそばに立っている大木につなげられていなければの話だが・・・。