サスーンの城門をくぐったユウたちを、サラは大喜びで出迎えた。王は侍女や料理人たちに宴の準備をするように言いつけ、サスーン城は久々にあわただしい雰囲気に包まれていた。
「来てくれてありがとう!ここのところ退屈していたからすごく嬉しいわ。料理が出来るまでゆっくりしていってね」
 サラは、自分の部屋にメグを迎え入れながら言った。
 アーガス王から時の歯車を受け取ったユウたちは、さっそくカナーンのシドを訪ねた。だが、家にいたのは妻のエルドリンだけで、シドは船の修理のため、一週間前からサスーンに出かけているのだという。
 ユウたちはエルドリンにエドからの手紙を渡し、すぐサスーンに向かった。そして、サラとシドとの再会を果たしたのだ。船の修理はすでに終わっていたので、時の歯車を渡されたシドは大張り切りでエンタープライズの改造に取り掛かった。ユウは面倒くさがるジョーを引っ張って、彼の助手を務めていた。
「・・・それにしても本当に見違えたわね、あなたたち」
 サラの部屋でお茶を楽しんでいる最中、サラが言った。
「ユウとジョーは日に焼けて逞しくなってるし、メグは髪が伸びて大分感じ変わってるし・・・あれから四ケ月しか経ってないなんて信じられない」
「四ケ月?もうそんなに経っ・・・ああっ!」
 メグは言いかけて、唐突に思い出したことがあった。旅に出てからというもの、暦はほとんど気にしたことはなかったのだが、最初にサラと会ってから四ケ月経っているということは、今は八月ということになる。つまり・・・。
「ど、どうしたの?」
 突然の大声に、サラが面食らう。
「す、すみません姫さま、今日は何日ですか!?」
「何日って・・・八月十三日だけど、なんでそんなこと訊くの?」
 サラの回答を聞き、メグはわれに返ると同時にホッとした。まだ、一週間ある・・・。
「い、いえ、ちょっと気になって・・・」
 メグは慌てて目をそらした。そのせいで、サラがニヤリとした表情を浮かべたことには気づかなかった。

 夕食前には、エンタープライズの改造が完了した。
 油まみれのユウ、ジョー、シドが風呂に入りに行くのと入れ違いに、メグとサラは城の外に出てみた。
「すごい・・・!」
「格好いい!」
 メグとサラは、思わず興奮をあらわにした。水の上にしか着陸できないということで、海に浮かべたままになっているが、飛空艇と化したエンタープライズにはプロペラがびっしり取り付けられていた。さらに、速度はエンタープライズの倍近くにまであがったという。
「これで外の世界に行くのね・・・なんだか、ドキドキしちゃう・・・」
 メグは、この船さえあれば、どんなところにでも行けるような気がしていた。

 翌朝。王にお礼を言い、ユウたちとシドは飛空艇に乗り込んだ。先にシドをカナーンまで送っていくことにしたのだ。
「・・・で、なんでサラがここにいるんだ?」
 操縦室で景色に目をやったまま、ユウは訊いた。ほかの三つの目線がサラに注がれる。今朝から自分の部屋にこもり、姿をみせなかったサラが、いつの間にか飛空艇に乗り込んでいたのだ。これにはユウたちも驚いた。
「一度飛空艇に乗ってみたかったのよ。だって、見るだけだなんてとてもじゃないけど我慢できないわ。それに、久しぶりにカナーンに行きたかったのよ」
 朝会ったときに見せた寂しそうな表情とは対照的に、サラはなんともうれしそうな笑顔を作っていた。部屋にこもっていると見せかけて置手紙を残し、窓から脱出してきたのだという。そして、船室のひとつにこっそり忍び込んでいたわけだった。
「だったら、口でそう言ってくれればよかったのに」
「直接頼んだら了承してくれたの?」
「ぐっ・・・」
 ジョーは言葉に詰まってしまった。シドとメグも呆れたような顔をしていた。部屋にこもっていたのは、別れが辛いからだと思っていたのだが、こちらが本当の目的だったとは・・・。
「カナーンで買い出しをする間は、サラも街を見てていい。でも、それが終わったらすぐにサスーンに戻るからな」
「ありがとう、さすがユウは話せるわ!」
 サラはユウの腕に飛びついた。
「おい離せ、手元が狂うだろうがーっ!」

 シドの家で合流することにして、ユウたちは買い出しに行った。サラは子供のようにはしゃぎながら、街の散策に出て行った。
 買ってきた生活用品の入った革袋を持ったメグは、一軒の小間物屋を見つけ中に入った。街で一番大きい店で、品数も多い。
「何がいいかなあ・・・」
 さまざまな装飾品を前に迷っていると、
「もしかして、ジョーへのプレゼント?」
 目の前にひょっこりとサラが現れた。同じ店にいたらしく、手に指輪やペンダントを持っている。メグは驚いて、
「な、なんでそれを!?」
「あれで隠してたつもり?サラさんを見くびるんじゃないわよ」
 サラはメグを突っついた。メグは顔を赤くしながら、
「・・・二十日はジョーの誕生日だから、何か贈ろうかなと思って・・・」
「なるほど、それで日付を気にしていたわけね。あ、こんなのはどう?」
 言いながら、サラはきれいな小箱を差し出した。大きさこそ違うが、同じ装飾の指輪がふたつ、中におさまっている。
「からかわないでください」
 メグは冷静を装いながら、小箱をもとの場所に返した。
「ペンダントはもうつけてるからだめよね・・・そういえばジョーって、どんなものが好きなの?今までの誕生日は何をあげていたのよ?」
 メグは男性用の銀の指輪や腕輪を取り上げながら、
「あのペンダントは別として、こういうのをつけているところ、あまり見たことないです。去年の誕生日は、お母さんがヌンチャクをプレゼントしていました。それも本人の希望で・・・」
「ヌンチャクか・・・いいなあ、あたしなんかそういうのもらったことないし・・・あ、これどうかしら?派手じゃないからいいと思うんだけど・・・」
 サラが見せたのは、麻ヒモで作ったシンプルな腕輪だった。
「あ、いいですね、似合いそう」
 メグが腕輪を買ったのは、店に入ってから一時間近く経ってからのことで、既に日は暮れかけていた。手の中の包みを見ながら、メグは二十日が来るのを待ち遠しく思っていた。

 シド夫妻に別れを告げ、ユウたちは飛空艇を飛ばした。サスーンの近くでサラをおろし、そのまま東に向かった。上昇すると、今まで自分たちがいた大陸が海の上にぽっかり浮いているのがわかった。ジョーがぽつりと言う。
「本当に浮いてるんだな、オレたちのいた大陸って・・・」
 どんどん小さくなる浮遊大陸を見送り、飛空艇は本格的に外の世界に飛び出した。