ユウたちが氷の角を持ってドワーフの住処に戻ると、ドワーフたちは大喜びで迎え入れてくれた。
「ありがとう!とりあえず、角を祭壇に戻しておくれ。貸すのはそのあとだ」
 ドワーフの台詞にジョーは怪訝な顔をして、
「えっ?このまま二本とも持っていっていいんじゃないか?どうせこのまま炎の洞窟に行くんだから」
「そういうわけにもいかんのだ。二本の角は少しの間でも離されていると、本来の力を失ってしまう。だから、一度祭壇で一緒にして力を復活させるんだよ」
「あれで本来の力を失っているって・・・じゃあ、二本揃ったらどうなるんだ・・・?」
 ユウは、先ほどメグが角を使ったときのことを思い出しながらつぶやいた。
 角の守り手だというドワーフが祭壇の前で、ユウたちには聞き取れないドワーフの言葉で呪文を唱えた。
「これで祭壇に入れる。さあ、角を戻して」
 言われたとおりにメグが祭壇に上がり、角のそばにもう一本の角を置く。二本の角が共鳴するように輝きだした、そのときだった。
 突然メグのうしろにあった影が膨れ上がったと思うと、あっという間に二本の角を奪い取り、もう片方の手でメグを捕まえてしまった。
「キャッ・・・」
「グツコー!?」
 ユウは驚きの声を隠せなかった。祭壇に立っているのは、倒したはずのグツコーに相違なかった。
「ふははは、影に化けてついてきたのに気づかんとはな!」
「なんだって!?くそっ、だからあのとき・・・」
 洞窟で感じた違和感が気のせいではなかったことを知り、ジョーは自責の念にかられた。と同時に、屈強なグツコーがどうやってメグの影になりすませたのだろう、とこの場にはそぐわないことを考えていた。
「そうか、もう一本の角が目的でわざとやられたふりをしたんだな!」
「その通りだ。さあ、その物騒なものをしまってくれないか?出来ることなら、人間の血は流したくないんだがな・・・」
 メグが口を開きかけたが、グツコーに鋭い棘がついた腕輪をのど元に押し当てられ、何も言えなくなってしまった。
「くっ・・・!」
 ユウは剣をその場に投げ捨てた。ガラン、という音が響き渡る。
「そうそう、最初からそうしていればいいんだよ!これでクリスタルの力はいただきだ!」
 言うなり、グツコーはメグを突き飛ばした。
「キャーッ!」
 メグの身体が階段を転がり落ちる。
「メグッ!」
 ふたりがメグに駆け寄ったときには、高笑いの余韻を残し、グツコーは姿を消していた。
「わ、わたしは平気。それより、早くあいつを追わないと・・・!」
「あんなヤツにクリスタルの力を渡してたまるか!追いかけるぞ!」
 ユウたちは、突然の出来事に呆然としているドワーフを尻目に、炎の洞窟に急いだ。

 ユウたちが炎の洞窟にたどり着いたときには、既に洞窟の封印は解かれたあとだった。炎に強く、冷気に弱い魔物が徘徊していることを聞いていたので、洞窟に入る前にジョーは黒魔道師になった。
 ムッとするような熱気が、洞窟中にたちこめている。溶岩の海が、大きな泡を作り、壊すことを繰り返しながら、そこここで真っ赤に煮えたぎっている。
 ユウは、額を流れ落ちる汗を拭った。汗は滝のように全身を伝い、服はべっとりと肌にはりつく。暑さで頭はボーッとする。その不快感が、何ともいえず嫌だった。夏という季節が、余計それを増幅させてしまう。
 途中、何度も魔物が襲いかかってきたが、ドワーフから譲り受けたフリーズブレイドとアイスシールド、ジョーの冷気魔法が功を奏した。
 こうした戦闘を繰り返しつつ、三人は地下三階まで辿り着いた。
 奥に進んでいくと、古びた木の扉が見えた。風の洞窟で見た物と全く同じ物だった。ユウは、用心しながら取っ手に手を掛け、一気に開けた。
 中は、洞窟内とはうって変わって涼しい空気がたちこめていた。三人は、思わずホッとした。
 部屋の奥に、赤い鉱石で作られた四本の柱に囲まれ、「炎を育むクリスタル」と刻み込まれた台座にのった、真紅のクリスタルが設置してあった。だが、クリスタルはまったく光を放ってはいなかった。くすんでいるようにも見える。
 三人がクリスタルにそっと近付こうとした、そのときだった。
 真っ赤に燃えさかる業火が、頭上から三人を襲った。
 ユウはジョーとメグを庇うように立つと、素早く自分の盾を翳した。火炎が激しくぶつかり、ユウは数歩後ろに下がったが、氷の魔法がかけられている盾は、炎を完全にくい止めた。
「何処だ、グツコー!出てこい!」
 ユウが叫ぶと、不気味な笑い声と共に天井から魔物が降り立ってきた。炎を食い、炎の中に住むと言われる火トカゲ、サラマンダー・・・クリスタルの力を奪って変身したグツコーだ。
「角を返せ!」
 ジョーが叫ぶと、サラマンダーはふん、と笑った。
「もう遅い!オレは究極の力を手に入れたのだ!おまえらなど怖くないぞ!」
 そう言うなり、魔物は炎を吐きだした。さっきのものより、さらに大きく、色も白っぽかった。
 ユウは素早く跳躍して炎を避け、ジョーのブリザラとメグのエアロが、炎を吹き飛ばした。
 と、着地したユウが、サラマンダーの前足に斬りつけた。赤黒い鮮血が飛び散る。
「グワッ!」
 サラマンダーは悲鳴をあげ、のたうちまわりながら火を吐いた。ユウは着地したばかりの不自然な体勢にあったため、炎の直撃をまともに受けた。
「うわあーっ!」
 ユウの身体は吹っ飛び、壁にいやというほど叩きつけられた。衝撃に気を失いかけた。
「ユウッ!」
 回復魔法をかけようと駆け出したメグに向かって、サラマンダーは三たび炎を吐きかけた。と、それより一瞬早く、ジョーのブリザラが火を消していた。
「ヤツの火はオレに任せろ。今のうちに!」
「うん!」
 メグは頷くと、ユウにケアルラをかけた。
 傷が癒されると、ユウは敏捷な動作で立ち上がり、跳躍すると、一気に魔物に突っ込んだ。
「ギャー!」
 先程ユウに付けられた傷をさらに深くえぐられ、サラマンダーはさらに苦しんだ。
 援護にまわったジョーがブリザラで炎を吹き飛ばし、メグがエアロで、ユウが剣で攻撃する。三人の連係攻撃に、サラマンダーは徐々に弱り始めた。
「てえいっ!」
 ユウが剣を振りかぶってサラマンダーの片目を潰すと、魔物は顔からボタボタと血を流しながら、不気味な悲鳴と共に、めちゃくちゃに火炎を吐きまくった。だが、それもむなしく、ジョーとメグの魔法に打ち消された。
 メグがエアロを続けざまに放つと、間髪を入れずユウがありったけの力を振り絞って剣を振り下ろした。
「ギャオオッ!」
 大量の鮮血が床と壁に飛び散り、サラマンダーの身体がゆっくりと崩れ落ち、やがてもとのグツコーに戻った。その横に輝く二本の角。ユウはそれを拾い上げた。
「みんな、大丈夫か?」
 ユウが、座り込んで肩で激しく息をするふたりに問いかけたときだった。幾筋もの赤い光が三人の身体を射たのは。
 それは、奪われた力を取り戻した火のクリスタルが放った光だった。そして光を浴びたとたんに、グツコーの姿が消えてしまった。
「ヤツは外に出しておいた。もう二度とクリスタルの力を狙いはしないだろう・・・」
 クリスタルの穏やかな声が聞こえて来た。
 ユウたちがクリスタルの前へ進み出ると、
「ありがとう、光の戦士よ。私を解放してくれて」
 クリスタルが礼を述べると、ユウが言った。
「クリスタル・・・。訊きたいことがある。グルガン族のところに行ったとき、彼らは、『土の力が、他の三つの光を封じた』と言っていたんだ。それはどういうことなんだ?」
 ユウがそう問いかけると、
「土のクリスタルは・・・何者かに操られた。そして、光の力を奪われただけでなく、私たち三つのクリスタルの力をも奪ってしまったのだ。土のクリスタルは、あの大地震を起こし、私たちを地中に封じ、力が存分に発揮できない状態にしてしまったのだ・・・」
「水と土のクリスタルは何処にあるの?」
「もうひとつの大陸だ。だが、あの大地震以来、彼らの波長が感じられなくなってしまった・・・さあ、火の力を授けよう。光の力を信じること、忘れてはならないぞ・・・」
 クリスタルがそう言うのと同時に、緋色の光が三人を優しく包み込んだ。
 力が体中にみなぎっていく。そして光が消えた。
 一瞬にも、長い間にも感じられた。
 気付いたときには、洞窟の入り口に立っていた。
 はっきりと感じられる炎の力、ユウの手にしっかりと握られた二本の角が現実の証だった。