ユウたちは、エンタープライズを岬からやや離れたところに止めた。海峡には大きな渦が発生していて、下手に近づこうものなら吸い込まれてしまう恐れがあったからだった。一時間ほど歩くと、オーエンの塔に到着した。
 オーエンの塔は、アーガス城北部に位置する古代人の遺産である。
 この塔が、一体いつ建てられたのか、今ではもう知る者はいない。
 数百万個のレンガを積み上げられて建てられた塔は、長期間風雨にさらされ、すっかり荒れ果てていた。塔はあちこち崩れ、漆喰ははみだし、どれだけ歴史があるのかを物語った壮大なものだった。
 四人は、少しの間塔を見上げた後、入り口の鉄扉を開けた。
 塔の中に入っていくユウ、ジョー、メグ、デッシュの四人を、塔から数百歩離れた木陰から冷徹な目で見つめている女がいた。ヘキナだった。

 オーエンの塔の中は一面水びたしだった。塔の中にできた湖という感じだ。
「なるほど、ここでトードを使えってわけか」
「蛙になって、中に入れってことね」
「蛙に化けるなら、おまえも溺れる心配はないな。なんなら、オレが引っ張ってってやろうか?」
「・・・いくわよ」
 メグは、ジョーの軽口を無視してトードをかけた。緑色の光に包まれた身体がみるみるうちに縮み、ついには小さな蛙に変身した。蛙になった四人は水に潜ると、道探しを始めた。
 十分ほど経った頃、ジョーが小さな穴を見つけた。どこかに続いているようだ。
 思い切って入ってみると、いきなり虹色の光に包まれた。
 身体が大きくなったり小さくなったりするような奇妙な違和感を覚えた。自分が落ちているのか、浮いているのかも分からなかった。
 それは、不意に終わった。

 気が付くと、何処とも分からぬ部屋の中に立っていた。魔法も解けていた。
 すり減った床には砂塵が溜まり、灰色の柱や壁は崩れかけていた。ここは、オーエンの塔の上階らしい。あの穴から、瞬時にここまで来たのだ。と、
「ようこそ、オーエンの塔へ。ここが貴様らの墓場となるのだ・・・」
 どこからともなく、不気味な女の声が聞こえてきた。声は壁に反響し、ワンワンと幾つにもこだました。メグは思わず、ジョーの腕をつかんでいた。
 四人は素早くあたりを見回した。だが、魔物の気配は感じられなかった。ジョーが、自分を勇気づけるためか、叫んだ。
「てめえ、このっ!隠れていないで正々堂々と戦えっ!」
 だが、答えはない。まるで、声の主が四人を小馬鹿にしているようだ。
「ふざけやがって!」
 いきり立つジョーを、ユウが宥めた。
「落ち着け。今ここにいたって何もならない。奴を探し出して倒すことが先決だ」
「あ、ああ・・・。おまえの言うとおりだな・・・」
 気を取り直すと、
「行こうぜ――」
  それ以降、四人は、ただひたすら、黙々と進んでいた。
 途中、魔物に何度か襲われた。
 相手にかみついて深手を負わせるオヒシュキ、空を飛んで攻撃してくる鳥人フリアイ、吸血蝙蝠ブラッドバッド。
 だが、ユウたちはそれらの魔物を片っ端から退けながら先に進んだ。
 そして、五階についたときだった。あの声が、また語りかけてきたのは。
「永久に、さまよい続けるがいい・・・」
「なにっ!?」
  四人は、急ぎ部屋を調べた。分かれ道が三つあった。だが、そのどれもが途中で行き止まりになっていた。
 壁には、鎖と歯車がいくつもかかっている。だが、手がかりになりそうなものはなかった。
「どうすればいいんだよっ!?」
「まってくれっ!」
  今まで黙りこくっていたデッシュが、突然叫んだ。
「確か、隠し扉の仕掛けがあったはず。確か、左から八番目の鎖を引っ張るんだ。やってみてくれ」
 ユウとジョーは、デッシュの言うとおり、二人がかりで鎖を引っ張った。ひどく錆びついているので、時間はかかるし、手は赤錆で汚れ、汗でぬれた鉄の匂いが鼻を刺激する。引っ張られる鎖につられて、一緒になっている歯車も回る。
「そう、歯車がちょうど一回転するまで引っ張るんだ」
 そして、歯車が一回転したときだった。 ギィィ・・・行き止まりの壁が、口を開けた。そこには、ちょうど人ひとり分通れるほどの細道があった。
「デッシュ、記憶が戻ってきたのね」
「ああ・・・この塔は見覚えがある。何だか懐かしいんだ」
 デッシュはそう言っただけだが、心中は複雑だった。
 「運命が待っている」グルガン族の言葉が、頭の中でぐるぐる回る。
 塔に入ってから、次々と記憶の扉が開いていく。
 人々を襲う魔物の大群。
 修羅場と化す塔。
「アル・・・。おまえは最後の望みだ。この塔が危機に陥ったときは・・・頼むぞ・・・」
 聞き覚えのある声。
 記憶が完全に戻ったとき、それは・・・ユウたちと別れなければならないときだろう・・・。
  デッシュは、そんな感傷を振り払うように、
「こっちだ。案内するぜ」
 先頭に立った。
 幸いにも、十階に辿り着くまで、魔物に遭遇せずにすんだ。

「うっ!」
 十階の動力室への扉を開けようとしたとき、凄まじい熱気が扉を通して伝わってきて、思わずユウたちは息を詰めた。
「行くぞ!」
 デッシュが、思い切って扉を開けた。信じられない光景を目の当たりにして、四人は立ちすくんだ。
 部屋の中央には、塔の動力炉と制御装置が据え付けられている。炉からは、白い炎がごうごうと吹き出していた。今にも飛び出して、部屋を焼き尽くしそうな勢いだ。
「動力炉を――!」
 ユウたちが、動力炉に駆け寄ろうとしたときだった。突然床がボコッと盛り上がったと思うと、巨大な対のカマが襲いかかってきた。以前にも遭遇したゴルゴーンの亜種、カフジェルだ。ユウたちは、咄嗟に床を蹴って散っていたので、カマの攻撃を受けずに済んだ。メグは、カマを避けると同時に、エアロの魔法を唱えていた。
 ビキビキという音と共に強固な鱗が割れ、鮮血が飛びちる。後はとどめを刺すだけだった。
「脅かしやがって――」
 ジョーが苦々しげにぼやいた途端、メグの首に異形の物体が絡みついた。同時に勢いよく引っ張られ、
「キャッ!?」
 ユウたちが振り向くと、木の姿をした魔物が、その枝をメグの首と手足にしっかりと巻きつかせていた。とらえた人間の精気を吸い取り、自分の養分にしてしまうというバロメッタだ。
「この野郎!メグを放せっ!」
 ユウとジョーが身構えた次の瞬間、
「下がれバロメッタ!そやつらと戦うのはこの私だ!」
 怒鳴り声が響き、それを聞いたバロメッタはメグの身体を解放してそそくさと姿を消した。声のした方に目をやるユウとジョーに、メグが駆け寄る。と、動力炉の前に黒い光が現れたかと思うと、一瞬にして魔物の形を成した。
 ウネウネと動く気味の悪い蛇の頭髪に、真紅に輝く目。メデューサだ。
「ここから先には行かせん」
 メデューサは、冷ややかな声で言った。下の階で聞いた、あの不気味な声に相違なかった。
「おまえたちは果報者だな。浮遊大陸が墜落する瞬間を見られ、しかもここを墓場にできるのだから」
「この大陸を・・・落とすだと!?なぜそんなことを!」
 デッシュが叫んだ。
「ザンデさまの命令だ。動力炉のあるこの塔を破壊すれば、力を失った浮遊大陸は落ちる」
 ユウは内心驚きつつも、冷静さを装って訊いた。
「ザンデ・・・?そいつが、闇を呼び寄せようとしている張本人なのか?」
「フン・・・どうだろうと、おまえたちには関係ないことだ。ここで死ぬおまえたちにはな」
「黙れ!」
 ジョーが叫んだとき、デッシュが何かを思い出したように、
「メデューサッ!おまえ、蘇ったのか・・・!」
 メデューサは、憎悪の目で自分をにらみつけるデッシュをまじまじと見ていたが、やがて爆発するように笑い出した。
「はっはっはっ!そうか、おまえはあのときの弱虫のクズ野郎かっ!ちょうどいい。おまえも仲間たち同様、動力炉の餌食となれ」
「ふざけるな!」
 ユウは剣を構えた。ジョーも、メグもそれに倣う。
「気をつけろ!そいつは、石化魔法を使うぞ!」
 デッシュの叫びを背に、ユウは敢然とメデューサに斬りかかった。が、紙一重の差で交わされてしまう。その間に、魔物はユウの背後へ移動していた。
「フフッ。まずはおまえからだ」
「や、やめろ!」
 ユウが振りむいたときには、既にメデューサの目は不気味に光りだしていた――その視線の先にいるのはデッシュ。ユウは駆け出そうとしたが、間に合わなかった。
「愚かなる者の血肉よ、無様な姿と化してしまえ!ブレイク!」
「危ないっ・・・!」
 デッシュを狙って発動された魔法の波動は、デッシュではなく、とっさに彼の前に立ちはだかったメグの背中に突きささっていた。たちまちのうちに、ピシピシという音を立てて足もとから首まで石化が広がっていく。
「うっ・・・」
「メグ!」
「メグちゃん!」
 それでもメグは、狼狽するデッシュをしっかりと見て言った。
「は、はやく、動力炉、に・・・」
 やっとのことでそこまで言い終えると、目を閉じたメグの身体は完全に物言わぬ石像と化し、そのまま鈍い音をたてて床に転がった。
「メグ!おい、メグッ!」
 三人は石像に駆け寄ってみたが、自分たちには手のほどこしようがなかった。メデューサの耳障りな嘲笑が、神経を逆なでする。
「ふははは!わざわざ犠牲になるとは愚かな娘よ。遅かれ早かれ、ここで死ぬことに変わりはないのに・・・」
 ジョーが、拳をふるわせて立ち上がった。
「・・・貴様、よくもっ!」
「ヤツはおれたちで食い止める。デッシュは動力炉のところに行くんだ!」
「あ、ああ・・・」
 デッシュはうなずき、動力炉に向かう。メデューサがそれを妨げようと再び目を光らせようとする。だが、それは顔面に投げ付けられた石片によって阻まれた。石が爆発し、
「ぐわあああっ!」
 メデューサが焼けただれた顔を抱えて悲鳴をあげる。
「もう一個いくかい?」
 ニヤリと笑ったジョーの手には、黒い石片があった。アーガス城の宝物殿で入手していた、「ボムのかけら」だ。メグに怒られて武器や金貨の類は返したが、魔力がこめられた道具を数点持っていったのだ。
「女の顔を傷つけたね!許さないよ!」
「へえ、おまえ女だったのか。化け物でも顔は気にするんだな」
「なんだと・・・!」

 ジョーの憎まれ口が怒りを倍増させたのか、メデューサの頭の蛇がうねり、別々の生き物のようにユウたちに襲いかかった。
「うわあっ!」
 一匹の蛇に足を絡めとられたジョーが宙に持ち上げられ、そのまま床に叩きつけられた。ジョーの唇から血がこぼれ出、意識が遠のきかける。と、
「火傷したんなら、冷やしてやるよ!」
 ユウの声と共に、強烈な冷気がメデューサを襲った。冷気は凝縮して矢と化し、射抜かれた蛇が次々に凍結していく。ジョーは自分の足に巻きついた蛇を叩き割り、ようやく自由の身になった。
「助かったぜユウ!ちょっと冷たかったけど・・・」
 ジョーは、ユウの手の中にある白い珠を見た。ランドタートル戦で使ったことのある「南極の風」だった。今のふたつの攻撃で、メデューサは大分弱ったようだ。
「おのれえっ!」
 メデューサは、再びブレイクの魔法を放った。ジョーが床を蹴って波動から身をかわすと、すかさずユウが斬りかかる。斬られてもなお跳躍するメデューサに、
「この野郎!」
 ジョーがさっきのお返し、とばかりにメデューサの顔面に強烈な跳び蹴りを見舞った。間髪を入れずにユウの剣に切りとばされた残りの蛇が、薄紫色の血をまきちらしながら床に転がった。切り離された蛇は少しの間ウネウネと動いていたが、やがて石造りの床に溶けるように消えていった。
「所詮は、石化しか能のないヤツなんだ!」
 そこを容赦なくユウの剣とジョーの拳が舞うと、再び薄紫色の血が床を汚した。
 ユウは、残された力を振り絞って剣を握りなおすと、メデューサの右目を一気に突き刺した。引き抜いた剣の刃がぼろぼろと零れ落ちた。「うわあああっ!」
 片目を貫かれたメデューサは全身を硬直させた後よろけると、そのまま動力炉の炎の中に消えていってしまった。
「・・・くそっ!」
 制御装置をいじっていたデッシュが、吐き出すように叫んだ。ふたりは駆け寄り、
「どうした、デッシュ!」
「メデューサが飛び込んだ勢いで、動力炉がますますひどい状態になっちまったんだ!もうこの装置じゃどうしようもねえ、炉の中に入って直接修理しなきゃならないんだ!」
 ユウとジョーは愕然とした。
「な、なんだって!?」
 白い炎が、渦を巻いて動力炉から吹き出し続けている。心なしか、先程より炎の勢いが増したように思える。今にも爆発してしまいそうだ。
「今なら間に合うな・・・」
「おい、まさか・・・!」
「来るな!」
 近寄ろうとするジョーを、デッシュが強い口調で制した。彼の目は真剣そのものだった。
「デッシュ、おまえは・・・」
 ジョーの問いに、デッシュは答えた。
「やっと全部思い出したよ。おれの本名はアルセリオ・オーエン。この塔を造ったマルセル・オーエンの息子で、古代人の生き残りさ」
「デッシュが古代人!?あの、光の氾濫を起こしたっていう・・・!」
 ユウが古代人の村での話を思い出しながら言うと、デッシュはうなずき、
「ああ。話せば長くなるが、古代人が光の氾濫を起こしたとき、この塔に魔物どもが攻めてきた。そのなかに、あのメデューサがいたんだ。古代人のほとんどは殺されたが、親父はなんとか魔物を退けることに成功したんだ。でも、ひどいケガをしていた。親父は、最後の力を振り絞って、おれを冷凍冬眠させた。もしいつかこの塔が危険にさらされたら、目覚めるように設定したんだ。眠りすぎて、記憶をなくしちまったが・・・」
 デッシュは、悔しそうに唇を噛んだ。
「というわけで、おれは動力炉を直さなければならない・・・これがおれの使命だしな。だから、おまえらとの旅もここまでだ。海峡の渦を消しておくから、ドワーフの島に行け。あと・・・」
 デッシュは、何かを放り投げてきた。ユウが受け取ってみると、それは金色に輝く針だった。
「今そこで拾ったんだ。そいつで、メグちゃんをもとに戻すことが出来るぜ。ジョー、あの娘はいい娘だ。だから大事にしてやるんだな」
「デッシュ・・・」
 ジョーの消えいりそうな声に、デッシュはいつもの笑顔を見せた。
「何辛気臭い顔してんだよ。おれは仕事でちょっと忙しくなるだけだ。だから、サリーナに伝えておいてくれ。時間はかかるが、必ず帰ってくる。待っていてくれ・・・と」
「わかった・・・約束だぞ」
 ユウが頷くと、
「じゃあな、また会おうぜっ!」
 デッシュは、ためらうことなく、一気に動力炉に飛び込んだ。彼の姿は、たちまちのうちに紅蓮の渦の中に消え去っていった・・・。
「デッシューッ!!」
 ユウが叫んだとき、突然、目のまわりの光景がゆがみはじめ、思わずしゃがみこんだ。
 そして我に返ってみると、ユウたちはエンタープライズの前に戻っていた。海峡の渦は、跡形もなく消えていた。 
 乗員がひとりいなくなったエンタープライズ内は、火が消えたように静かだった。
 ジョーは、船の甲板から、遠のいていくカナーンの街の灯をじっと見ていた。サリーナにデッシュの伝言を伝えたのだ。サリーナは、衝撃を受けたにも関わらず、気丈にも微笑んで見せた。
「あの人がそう言うからには、大丈夫よね。わたし、彼を信じるわ。彼は必ず帰ってくるわ」
 やつれた顔のサリーナは、デッシュの腕輪を握りしめながら言った。それは、絶望の果てでの発言ではなく、本気でそう思っているような表情だったのだ。
「ジョー・・・食べるか?」
 振り返ると、ユウが立っていた。両手に果物を持ち、片方を差し出している。ジョーは礼を言って受け取ると、一口かじった。ユウも果物にかみつく。シャリッとした歯応えが心地よかった。
「メグの様子はどうだ?」
 口の中の果肉を飲み込んだあと、ジョーは訊ねた。
「まだ寝込んでるよ」
 デッシュの件で、一番衝撃を受けたのがメグだった。金の針でもとに戻したあと、ユウとジョーはメデューサを倒してからの出来事を包み隠さず話した。メグはしばし絶句したあと、涙を流しながら、
「そんな・・・!デッシュ、前に言ってたのよ!?『記憶を取り戻して、ちゃんとした気持ちでサリーナを迎えに行くんだ』って・・・!あれは嘘だったの・・・!?サリーナさんを置いていくなんてひどいわ・・・」
「それは違うぞ。デッシュは『必ず帰ってくるから』っておれたちに言ったんだ。ちゃんとした気持ちというのは、自分のことを全部思い出して、自らの使命を果たしてからという意味だったんじゃないのか?」
「それに、あいつ別れ際に『また会おうぜ』って言ったんだ。その台詞が、生きているという何よりの証拠だろう?」
 諭すようなふたりの言葉に一応の理解はしたようだが、まだ納得は出来ていないようだった。
 それにしても・・・とジョーは思った。「メグを大事にしてやれ」というデッシュの言葉。あれがどういう意味なのかわからないのだ。仲間だから大事にするのは当然のことだが・・・。
 ジョーにはまだ、この言葉の真の意味を理解することは出来なさそうだった。 
 メグは真っ暗な部屋の中で、ベッドに横たわったまま窓から月を眺めていた。
 デッシュと話したとき、自分は「生活環境が変わりそうだから、思い出せなくてもいい」と答えたが、デッシュはまさにその状態になってしまった。やっぱり、記憶が戻ると言うのは不幸なことなのだろうか・・・。記憶を失う前に嫌な出来事に出くわしていたとしたら、それは思い出せないままのほうがいい。そうすれば、新しい世界で新しい生活を始められるのではないか・・・と、ここまで考えて思いなおした。
 デッシュが全部思い出したからこそ、今自分たちはこうして旅を続けていられるのだ。そうでなければ、墜落する浮遊大陸と運命を共にしていただろう。

 それに・・・記憶を失う前は嫌なことばかりだったと、なぜ決め付けられる?もしかしたら今も、自分の本当の家族や友人が自分を探しているのかもしれない。いくらウルでの生活が幸せだったからと言って、一瞬でもそんな風に考えてしまった自分を恥ずかしく思った。
 メグはベッドから出ると、窓に向かって両手を組んでデッシュに感謝した後、無事を祈った。いつか、自分の記憶が戻ったときのことに関しては・・・。
「そのときになってから考えよう!」
 昔ジョーに言われた言葉を思い出し、メグは船室を出て行った。