バハムートは、輝く黄金のオーブをユウに差し出した。オーブを受け取ると、金色の光がユウの身体を包み込み、先の戦いで負った傷をすっかり癒した。

「おまえなら、リヴァイアサンの力も、私の力も上手く使いこなせるはずだ。自分の力に自信を持つことだな」

「ありがとう」

「・・・おまえに話しておかねばならないことがある。赤子のおまえをウルに預けたのはこの私なのだ」

「何だって!?」

 ユウは激しい動揺を覚えた。バハムートの言葉に、頭をガンと殴られたような衝撃を感じ、一瞬身体が凍てついた。ユウは、数回深呼吸すると何とか気持ちを落ち着けようと努めた。 

「おまえの両親の名は、サイラーとアスナ。お前は魔剣士の村、ファルガバードの生まれなのだ」

「ファルガバード?」

 聞き慣れない地名だ。「それで、その村は何処にあるんだ?」

「サロニア南西の、山に囲まれたところにある。そして、サイラーは小さい頃の私とリヴァイアの教育係だった」
「教育係?おれの父親は幻獣だったのか?」
「ああ。だが千年と少し前、私が竜王の位を継ぐ直前に、幻界から追放されたのだ。父上の遺言でな」

「お父様が!?ど、どうして!?」

「幻界の掟を破ったからだ。ある日ひとりの女が、偶然人間界と幻界をつなぐ時空の闇に落ち、幻界に来た。彼女を発見したサイラーは、城に連れて帰り手当てをした。だが、いつの間にかふたりは恋仲になってしまった。人間と幻獣が愛し合うことなど人間嫌いの父上は許さず、女は幻界に関する記憶を消され、人間界に帰されただけで済んだが、サイラーは全ての記憶を抹消された上、氷の棺に閉じこめられた状態で人間界に追放されたのだ」

「ひでえや・・・」

「約千年後封印は解け、記憶のないサイラーはあてもなくさまよい、行き倒れ同然でファルガバードに来たところをアスナに助けられ、村に住むことになった。そして、おまえが産まれたのだ」
「そうか・・・で、おれの両親は、今は・・・?」
 多少の覚悟を持ってユウは尋ねた。
「残念だが・・・ふたりともすでに亡い。サイラーはおまえが産まれてまもなく、魔王ザンデの手にかかったのだ」
「ザンデが・・・!?」
「亡くなる寸前、駆けつけた私におまえを託して・・・」
 ユウは無言で顔を伏せた。胸の内にはザンデへの激しい憎悪が渦巻きはじめていた。
「アスナはおまえが五歳のときに病死した。アスナにはラシュカという弟がいて、彼はファルガバードで暮らしている」

「そうか・・・」

 そして、疑問をぶつけてみた。

「なぜあんたは自分からノアに封印してくれと頼んだんだ?」

「理由は簡単だ。私は、父上と違って人間が好きだからだ。人間はまだ滅ぶべきではない・・・だから、光の戦士に力を与えようと思った、それだけだ。・・・ところで私が自ら封印を望んだことは、ノアの弟子から聞いたのか?」

「おい待てよ、ドーガもウネもそんなことは全然言ってなかったぞ!知らないのかもしれないけど・・・その前に、何でお前が知っているんだよ!?」

「夢で見たからさ」

 呆気にとられる三人に、ユウはダルグ大陸についた際、奇妙な夢を見たことを話した。

「別に隠すつもりじゃなかったんだけど、言うタイミングがなかったんだよ。バハムート、おれの父親には、その・・・過去を夢で見るような能力のようなものがあったのか?」

 バハムートは首を振ったが、ふと思いついたように、

「もしかすると、そういう能力があったのは、母親のほうかもしれないな。素質をもってはいたが、それが表面に現れることはなく、サイラー・・・幻獣の血がアスナの血と混ざり合ったことによって、開花し、息子であるお前に備わった。・・・とは言っても、これは私の推測にしかすぎないのだが」

 バハムートは一呼吸おくと、

「おまえたちが探している土の牙はファルガバードの魔剣士の試験場にある。行け」

「ファルガバードに・・・おれの故郷に?」

「ああ」

「よし、これで行き先は決まりだな!」

「兄様。じゃあ、わたしたち・・・」

「ああ。しっかりな」

 バハムートはメグの頭に触れると、そのまま姿を消した。
 ユウは黄金のオーブを見つめながら、
じっと唇を噛んでいた。