闇の中に存在する四つの人影の前に、小山ほどもある巨大な光る物体が立ちはだかっていた。

唸りとも息遣いとも言えぬ不気味な声が、四人を威嚇するように至近距離からとどろく。近づこうとするだけで目が潰れ、窒息してしまいそうな瘴気があたり一面にたちこめる。

普通の人間なら、ここで怖気をふるって逃げることを試みるかもしれない。だが、四人は微動だにしなかった。無謀としか言いようがないかもしれないが、彼らはこの物体に挑むためにここまで来たのだ。覚悟はとうに出来ている。

 先頭に立っていた銀髪の男性が突っ込んでいったのを皮切りに、ほかの三人も戦闘体勢に入った。

 ひとりめ。最前真っ先に動いた、がっしりした体格の男性が大剣を振りあげた。

 白銀の刃が男性の意志とは別に、生きているかのような動きを見せ、大胆に、しかし的確に敵を切り裂く。一瞬だけ乱れた光が、男性の姿をいびつに照らしだした。

 ふたりめ。頑強さより動きやすさを優先させた甲冑をまとった女性が、細身の長剣を突き出しながら疾走した。敵の攻撃を跳躍で避けると、そのまま懐に滑り込むようにして攻撃を始める。踊るように剣を振るい、切りつける。その動きは髪の毛一筋ほどの無駄もなかった。攻撃の成功を確信し、女性は薄い笑みを浮かべながら左目を覆う眼帯をいじった。

 三人め。小柄な赤毛の少女が飛び出すと、構えていた杖で宙に何かの紋様をすばやく描いた。刹那、杖から白い光の十字架が現れ、敵の体躯に無数の傷を刻みつける。少女が振り上げていた腕を下ろすと、法衣の中から不自然な金属音が聞こえてきた。

 四人め。裾の短いローブと胸当てをあわせたような、風変わりな法衣をまとった少年が、茶色の髪を逆立たせながら両手を突き出す。

 誰にも聞き取ることができない古の言語での詠唱が終わると、少年の手から闇色の閃光が迸り、敵に直撃する。次の瞬間、凄まじい爆音とともに発生した業火が渦を巻き、光をそのまま飲み込もうとするかのように膨らんでゆく。敵をまっすぐに見据える少年の茶褐色の目が輝いていたのは、高位魔法の成功を喜ぶためか戦いの興奮のためか。

 四人の戦士たちは再び集い、次の攻撃を始めようとした、そのときだった。

 炎を振り払った敵の体躯が、爆発するように広がった。同時に初めての反撃が放たれる。

 破滅を具現化したかのような、炎とも氷ともつかない凄まじい一撃が、四人に降りかかるように襲い掛かって――。

 

 止まることのない永い永い時が流れ、やがてこの壮絶な戦いや戦士たちの名を知る者はいなくなり、またその記録が誰かの口から語られることもなくなった。ある学者が人生のほとんどを費やして書き上げた、戦士たちの功績をまとめた本は、数が減るばかりで増えることはなかった。

 更に時は流れ、人々は退屈なほどに平和な時代を甘受するに任せていたが・・・。

 永遠に続く平和と言うものは、不老不死と同じくらい、望んではならないものなのかもしれない。